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事業承継税制で相続税対策|申告の流れやメリットとデメリットとは

公開日:2023-05-11 12:00

目次

事業承継税制で相続税対策|申告の流れやメリットとデメリットとは

相続による事業承継とは経営者が亡くなり、事業が後継者に引き継がれることを指します。引き継がれるものは、大きく分けて次の3つがあります。

・経営の承継→経営権、後継者の選定や育成等
・知的資産の承継→自社の信用、蓄積された技術やノウハウ、顧客情報、取引先とのパイプ
・資産の承継→株式、設備や不動産、運転資金や借入金等

経営や知的資産のように、承継しても税金の発生しないものが存在します。しかし、経営者が培ってきた大切な財産であることにかわりはありません。

事業承継は一般的には次のような流れとなります。

1、後継者の有無を把握する
2、事業承継計画をたてる
3、相続発生
4、事業承継を実施する

もちろん、経営者が生前の内に贈与という形で後継者へ事業を承継しても構いません。

事業承継税制とは?贈与税や相続税の対策に重要!

事業承継税制とは、後継者に事業承継を行う際、企業の非上場株式等にかかる贈与税・相続税が猶予・免除される制度のことです。こちらでは、事業承継税制の概要、適用対象となる先代経営者・後継者について解説します。


事業承継税制の概要

事業承継税制は一般と特例の2種類があります。

一般事業承継税制は発行済議決権株式総数の2/3までの株式が対象で、贈与なら100%、相続なら80%分の納税が猶予されます。
特例事業承継税制は発行済議決権株式総数の全株式が対象で、贈与・相続とも100%分の納税が猶予されます。

なお、この2種類とも一定の条件で猶予された税が免除される場合があります。
免除を利用するには贈与または相続発生後、都道府県へ申請(特例の場合は事前に特例承認計画を提出)し、審査を受け認定してもらうことが必要です。
認定後に受け取った認定書の写しを税務署へ提出し、納税猶予税額・利子税の額に見合った担保を提供し申告します。


適用対象となる先代経営者・後継者

それぞれ次の条件を有する人が適用対象となります。

(1)先代経営者
会社代表者で相続や贈与の直前、現経営者・親族等で総議決権の過半数を保有、筆頭株主であることが必要です。なお、贈与では贈与時に代表者の退任が加わります。

(2)後継者
本人・親族等で総議決権数の過半数を保有することが必要です。また、後継者が

・1人→最も多くの議決権数を保有している
・2人か3人→総議決権のうち10%以上の議決権数を持ち、後継者と特別な関係者の中で最多の議決権数を保有していること

が条件です。更に

・贈与→贈与時20歳以上(2022年4月1日~18歳以上)かつ直前に3年以上役員で代表者であること
・相続→相続直前に役員であること、開始から5ヵ月後に代表者になる

ということも要件です。

事業承継税制のメリットとデメリットをご紹介

事業承継税制のメリットは概要紹介の際に説明した通り、一般と特例それぞれの対象株式分の贈与税・相続税が猶予される点です。猶予された税額分は、一定の事由が発生すれば免除される場合もあります。

中小企業者にとっては納税負担が重くのしかかり、承継を躊躇することにもつながります。このような税制上の優遇措置が受けられると、先代経営者・後継者も安心です。

一方、デメリットは納税猶予の取消があり得る点です。免除対象贈与以外の非上場株式の譲渡や、後継者が代表権を失う場合、​​後継者の方がM&A等を検討する場合などの等、取消事由に該当すれば納税猶予が取り消されます。取り消されたら、猶予税額全額の他、これに伴う利子税まで支払わなくてはなりません

納税猶予期間到来後「継続届出書」を提出すれば引き続き猶予がもらえます。しかし、継続した場合でも引き続き取消リスクは伴います。
さらに、納税猶予のためには、当初の計画の通り事業が進んでいるか報告書を毎年提出する必要があります。その際に、専門家に依頼する場合は費用が掛かります。
そのため、猶予される税金と猶予を継続するための費用のバランスも、事業承継税制を活用するかどうかの検討材料の一つになるでしょう。

事業承継税制活用を最初に利用するかどうか判断するための検討材料としては、下記2点が挙げられます。

・現在の事業が順調に後継されていくかどうか
・猶予を継続するための費用と猶予される税金のバランス

また、適用条件や手続きは複雑であるので、まずは経営者であるご自分、後継者、会社が事業承継税制の対象となり得るのかを税理士等の専門家に確認する必要があります。

事業承継税制を使うための要件とは?

前述した先代経営者・後継者以外の要件として、認定対象会社となることがあげられます。原則として株式を公開していない中小企業ならば、事業承継税制の適用を受けられます。

ただし、次の要件に該当する必要があります。

・上場会社でないこと
・風俗営業会社(性風俗営業会社)でないこと
・資産管理会社でないこと(一定の要件を満たすものは除く)
・従業員が1名以上いること

株式が証券取引所で売買されるようになった企業は適用外です。風俗営業の定義にはゲームセンター経営・パチンコ店等も含まれますが、適用外となるのは性接待を行う性風俗関連特殊営業に限定されます。

たとえ資産管理会社であっても、相続開始日まで引き続き3年以上、商品販売その他の一定の業務を行っており、相続開始時に親族外の常時使用従業員数が5人以上、親族外の常時使用従業員が勤務している事務所、店舗、工場等を所有または賃借している場合、事業承継税制が適用されます。

その他、従業員が社会保険に加入していた場合親族の従業員も該当します。また、75歳以上で社会保険加入義務のない従業員の場合、2か月超の雇用契約があれば要件に該当します。

事業承継税制の申告方法を個人・法人別に解説

個人でも法人でも事業承継税制は利用可能ですが、申告方法は異なります。こちらでは、それぞれの申告方法について解説します。

個人の事業承継税制の申告方法

贈与の場合と相続の場合とで申告期限が異なる事もあります。そのため期限内に手続きを進められるよう注意する必要があります。手続きの流れは次の通りです。

(1)個⼈事業承継計画の策定・確認申請
後継者が個⼈事業承継計画を作成、認定経営⾰新等⽀援機関が所⾒を記載します。先代の主たる事務所のある地域を管轄する都道府県へ提出します。2019年4⽉1⽇から2024年3⽉31⽇まで提出可能です。なお、認定申請と同時に提出しても構いません。

(2)贈与または相続による承継
双方とも2019年1⽉1⽇から2028年12⽉31⽇までの承継が対象です。

(3)都道府県へ認定申請
個⼈事業承継計画を添付し、認定申請を行います。期限はそれぞれ次の通りです。

・贈与:贈与年の10⽉15⽇~翌年1⽉15⽇まで
・相続:相続開始⽇の翌⽇から8か⽉以内(相続開始⽇の翌⽇から5ヶ⽉を経過する⽇以後の期間限定)

(4)税務署へ申告
認定書の写しとともに、贈与税または相続税の申告書等を提出します。期限はそれぞれ次の通りです。

・贈与:贈与年の翌年3⽉15⽇まで
・相続:相続開始⽇の翌⽇から10か⽉以内

(5)申告期限後
3年に1回、税務署へ継続届出書を提出します。

法人の事業承継税制の申告方法

特例事業承継を利用する場合に承継計画の策定は必要ですが、一般事業承継では不要です。こちらも贈与の場合と相続の場合とで、それぞれ申告期限の異なるケースがあります。手続きの流れは次の通りです。

(1)特例承継計画の策定・確認申請
特例の場合は計画を会社が作成(⽀援機関が所⾒を記載)します。主たる事務所のある地域を管轄する都道府県へ2023年3⽉31⽇までに提出します。

(2)事業承継
贈与または相続発生後に、特例承継計画を作成することも可能です。

(3)都道府県へ認定申請
承継計画を添付(特例の場合のみ)し、認定申請を行います。期限はそれぞれ次の通りです。

・贈与:贈与年の10⽉15⽇~翌年1⽉15⽇まで
・相続:開始⽇の翌⽇から8か⽉以内(相続開始⽇の翌⽇から5ヶ⽉を経過する⽇以後の期間限定)

(4)税務署へ申告
認定書の写しとともに、贈与税または相続税の申告書等を提出します。なお、贈与の際に相続時精算課税制度の適⽤を受ける場合、その旨を明記します。

(5)申告期限~
・5年間:都道府県へ年次報告書・税務署へ継続届出書、ともに年1回提出
・5年経過:実績報告を認定支援機関に提出(特例利用で雇用が5年平均8割を下回る場合)
・6年目~:税務署へ継続届出書を提出(3年に1回

特例を利用した場合、5年経過後に雇用が5年平均8割を満たすことができないと実績報告を提出しなければいけません。その理由を明記し、認定支援機関が確認します。もし、その理由が経営状況の悪化等なら当該機関から指導・助言を受けることになります。

贈与者や後継者が亡くなってしまった場合の納税の義務

事業承継税制を利用すれば贈与税・相続税共に猶予されます。更に贈与税の場合は先代経営者(贈与者)が亡くなった場合、猶予された贈与税を支払う必要が無くなり、相続税に切り替わります。なお、後継者(受贈者)が死亡した場合等も、猶予されていた贈与税は免除されます。

相続税の場合も、後継者が死亡した等の一定の事由で、猶予されている相続税が免除され、次の後継者が相続税を申告する際、新たに納税猶予を選ぶことができます。つまり、いずれの場合も猶予された税金分は納税の義務がなくなります。

相続に関するお悩みは相続診断士へ

相続は十人十色、十家十色の事情や問題があるもので、その解決策は一通りではないものです。

本記事で抱えている問題が解決できているのであれば大変光栄なことですが、もしまだもやもやしていたり、具体的な解決方法を個別に相談したい、とのお考えがある場合には、ぜひ相続のプロフェッショナルである「相続診断士」にご相談することをおすすめします。

栗原久人

笑顔相続サロン®静岡代表
FP事務所 LP想暖や代表
保険代理店 有限会社シー・フィールド代表取締役

上級相続診断士・終活カウンセラー・ファイナンシャルプランナー(AFP)生前整理カウンセラー・住宅ローンアドバイザー
ファイナンシャルプランナー歴・保険代理店経営歴共に20年、ライフプランや家計の見直し等の相談件数は2000件以上。
2019年笑顔相続サロン®静岡を開設 特に相続診断士×ファイナンシャルプランナー×終活カウンセラーの要素を活かした、終活+生前+相続のトータル対策を得意としている。